花の名は、ダリア
Ⅴ
ARBEIT MACHT FREI
『働けば自由になる』
映画などでもよく見る、アウシュビッツ強制収容所の門に書かれたスローガンだ。
『B』の文字が逆さに見えるのは、コレを作らされた囚人たちのささやかな抵抗だった、なんて話もあるが…
そりゃ抵抗したくもなるわな。
悪ふざけにも程だもんな、この一文。
笑えねぇ。
その、自由なんてちゃんちゃら可笑しい地獄への入り口を通過すると、赤レンガの建物が整然と建ち並ぶ。
まるで一つの街だ。
ヨシュアは恐怖と不安に押し潰されそうになりながら、この場所に戻ってきた。
そう、自ら戻ってきたのだ。
何も知らずにデボラと二人で連れてこられた、前回の時とは違う。
まぁ、兵に連行されてるってのは、変わんないンだケドネ。
隣にピッタリくっついて歩くのは、物珍しそうに辺りを見回しているダリア。
アンタさー…
もはやSSのフリする気なんてねぇだろ。
並ぶ二人を油断なく取り囲んでいるのは、ナゼか銃を構えた複数の兵士たち。
コレさー…
もはやバっレバレだろ。
拘束されていないのが奇跡だよ。
女子供だから、ナメられてンのカナ。