花の名は、ダリア
「二人を放してやりなさい。」
手術室の扉が開いて、優しい声が聞こえた。
うん、優しい…
だけど、なんだろう。
おぞましくもある。
姿を現したのは、金褐色の髪を後頭部に向かって撫でつけた、目鼻立ちの整った男だった。
男に向かって、その場にいた十数人の兵士たち全員が靴を鳴らして敬礼すると、自動的にヨシュアとデボラは解放される。
互いに走り寄って固く抱きあった二人は、青ざめた顔で、室内に入って後ろ手に扉を閉めたその男を睨んだ。
「お帰り。
私の可愛いモルモット。」
ヨシュアとデボラに、男が優しく微笑みかける。
「心配していたんだよ?
またこうして二人が揃って、本当によかった。」
けれど、やっぱりおぞましい。
その表情に、その声に、底知れぬ狂気を感じる。
この男が、トーデスエンゲル。
微笑みながら狂ったメスで人間を切り刻む、死の天使。
彼を見て、名を聞いて、恐怖に震え上がらない者はいない…
と、い う の に!
「あの人はきっとモテる男だわね。
気が利くもの。」
白い手で口元を隠したダリアが、困り果てた顔をする兵士に話しかけていた。