花の名は、ダリア
「おまえごときに何がわかる!?」
ダリアの率直な言葉にプライドを粉砕され、トーデスエンゲルは激昂した。
「確かにおまえの言う通り、ある虜囚に知識と能力を提供させた!
だが、ただそれだけのことだ!
私の頭脳とナチスの科学力なくして、この実験に成功はない!」
真っ赤になって喚き散らし、ついでに目の前にある手術台に、バンバン掌を叩きつける。
イタいトコ突かれた挙げ句の逆ギレなんて、本当に頭のイイ人はしないモンだよ、大尉さん。
叩かれた拍子に手術台に掛けられたシーツが舞い上がり、ダリアは眉を顰めた。
「…
血の匂いがするわ。」
一人言のように呟き、一歩進み出てシーツを剥ぎ取る。
どんなに拭き取っても。
どんなに洗い流しても。
凄惨な殺人の痕跡は、犠牲者の恨みのように消えないもの。
手術台のマットレスに流れた血は深く染み込んで残り、死者の声を聞くものを待っていた。
トーデスエンゲルの喚き声をまるっと無視して、ダリアは指でマットレスをなぞる。
そして、その指を舐める。
その途端に室内は、針が一本落ちても聞こえるほどに静まり返った。
ナニやってンだ、この女…
「あぁ… 酷いわ。
怯えてる、苦しんでる、泣き叫んでる…」