花の名は、ダリア

え?ナニする気?

視覚を奪われるって、なんて恐ろしいことだろう。

恐怖に硬直するトーデスエンゲルの耳に、派手な破壊音が響く。
頬を冷たい風が撫でる。

赤レンガの壁が…
蹴破られた?


「反乱だよ。
今やおまえらは追われる側だ。
無様に這いつくばって逃げてみろ。」


この声は… 誰の声?


「運良く逃げ延びても、この先おまえに安寧の地はねェケドな。
いつどこから襲いかかってくるかわからない復讐の刃に怯えて、闇の中で狂っていけ。」


黒髪のヴァンパイアの?
それとも、本物の悪魔の?

聞いてもらえる見込みがあるとは思えないが、一応懇願してみよう。


「た… すけ… て…」


血の涙を流したトーデスエンゲルは、微かな声を喉から絞り出した。

すると、無慈悲な失笑が鼓膜を揺らす。


「あ、ソレ言っちゃう?
散々その言葉を聞き流してきたおまえが、ソレ言っちゃう?」


(あぁ… 亡霊たちの声か…)


トーデスエンゲルは全てを理解した。

軽薄この上ない調子だが、これは自分がいたずらに奪ってきた、多くの命の声なのだ。

因果は巡る糸車。

次の瞬間、フワリと身体が浮いて…
『死の天使』は、地に堕ちた。

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