花の名は、ダリア
「私…
二人の前で人を殺したの。
ヴァンパイアとして、人間を襲ったのよ。」
ソージを見ないまま、寂しげに微笑んで首を横に振るダリア。
今の彼女からは、いつものあどけなさは消えていた。
美しさは少しも色褪せない。
けれど、長い年月を重ねて全てを諦めてしまった、老女のように見えた。
またかよ…
てか、勘違いも甚だしいわ!
「その顔、やめてくださいってば。」
眉を顰めたソージは、ダリアに向かって身を屈め、彼女の両頬を片手でムニュっと掴んだ。
「ぅにゃ…
にゃんにゃにょ?」
「俺がアウシュビッツに着いたとき、あのクソガキは貴方を助けに行こうとしていました。
クソガキの片割れも、それに同意して隠れていたようでした。
嫌いな相手を、助けようとしますか?」
「にゅ…」
「にゅ、じゃありません。
わかるでしょう?
ガキ共は、ヴァンパイアである貴方を受け入れていたンですよ。」
変顔をさせられても愛らしいダリアをひと睨みして、ソージは彼女の頬から手を離した。
そして、眉尻を下げて苦笑を漏らす。