花の名は、ダリア
俺はソージ。
今夜は雨だ。
ついさっきまでパンの仕込みに勤しんでいた俺は、傘もないまま帰途を急いでいた。
こんな冷たい雨の夜は、ちょっとヤな予感。
またダリアが、妙なコトをしてる気がすンだよね。
アパートに辿り着き、彼女の待つ部屋の辺りを見上げてみる。
ますます膨らむヤな予感。
溜め息を吐いた俺は、エントランスには向かわずその場でジャンプし、ベランダに設置されたスライド式の避難梯子に手をかけた。
軽々とよじ登り、窓から中を覗いてみる。
…
ハイ、予感的中。
広いとは言い難い部屋の隅で、ダリアは微睡んでいた。
ナゼか、膝を抱えて座り込んだまま。
ナゼか、玄関ドアに寄りかかって。
…ナンデヤネン。
ベッドがあンだろ、ベッドが。
うたた寝しちゃうにしても、玄関はねェだろ。
最初は驚いたンだから。
ドアを開けると同時に人がコロリと転がってくるとか、どんなビックリ箱デスカ。
注意してもやめないし。
と言うより、無意識の行動みたいだし。
ホント、手の打ちようがない。
そして…
玄関で眠るダリアを見る度、俺は彼女に聞いた話を思い出すンだ。