花の名は、ダリア
少し考え込んで、ダリアは首を傾げる。
「うーん…」
細い指で、髪を右耳にかけて。
眉尻を下げて。
「ちゃんと覚えてるワケじゃないケド、断片的な記憶はあるわ。」
そりゃ初耳だ。
貴方のコトならなんだって知りたいとねだる俺に、ダリアは朧げな思い出を語ってくれた。
彼女の言葉通り、ソレは断片的でとても短かった。
そして、とても悲しい思い出だった。
ダリアは、物心ついた頃には『丸い柱がいっぱい立っただだっ広い建物』に、たった一人で住んでいた。
どうやらソコは古代都市の神殿だったようで、彼女は神として祀られていたらしい。
誰を見ても黒髪黒目のその都市では珍しい、金髪碧眼の子供が、ただただ祭り上げられただけなのだろうと彼女は言った。
外に出ることはない。
もちろん友達もいない。
長く白い髭のオジーチャンたちがたまーにやってくるが、深々と頭を垂れ、祈りを捧げて帰ってゆくだけ。
そんな孤独なダリアにも、毎日顔を合わす人物がいた。
日の出と共にやって来て、日の入りと共に帰っていく、一人の女。
口数が少ないながらも穏やかな微笑みを絶やさず、恭しくダリアの世話をするその女は、おそらく神に仕える巫女かナニカだったのだろう。