花の名は、ダリア

傷つくことなどない非情な悪魔にならなければ、何も知らずに無垢なまま育ってしまったダリアには、とても耐えられなかったに違いない。

人々が掌を返したことに、ではなく。
殺されそうになったことに、でもなく。

巫女だった女を死なせてしまったことに。

女はその夜、ダリアを救いにきたのだ。

巫女ではない、一人の人間として。
神ではない、自分が育てた一人の少女を。

理不尽な処刑から救いにきたのだ。

なのに…

そんな女に怯え、拒絶し、結果死なせた。

ダリアはそのコトを、自覚もないまま今も悔いているンだろう。

だから雨の夜は、玄関で眠る。

いつ女が現れても、すぐに目覚めることができるように。
女と二人、手を取り合って逃げ出せるように。

今度こそ、幼い自分に寄り添ってくれた、母とも言うべき存在を死なせずにすむように…

『今度』なんて、二度とこないのにね。

ぶっちゃけこの話を聞いて、俺はなんとも思わなかった。

ジジィやその他諸々に怒りを覚えたワケでもないし、女を憐れんだワケでもない。

むしろこの件がなければ、ダリアが今のダリアとして俺と出逢うことはなかったのかも知れないと考えれば、双方グッジョブと言いたいくらいだ。

悪ィな、クソで。

でも…

玄関で一人、丸くなって眠るダリアを目にすると、俺は…

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