花の名は、ダリア
忘れたモンはしょうがねェしな。
嫌がるコトをする気もねェしな。
こーゆーのはどうでしょう?
「じゃ、好きな名前を勝手に名乗りゃいいンじゃないですか?」
「え?」
ソージの口から飛び出した思いがけない提案に、彼女は大きな目を瞬かせた。
「この国じゃあ、成長したら名前を変えたりするンですよ。
俺も子供の頃はソージローでした。」
「へぇ。
面白いわね、ソレ。」
彼女は笑った。
白い頬にエクボを作って。
口は開かずに唇の両端を上げ、目をキュっと閉じるその笑い方、可愛いな。
本当に子供みたいだ。
ソージも笑った。
こけた頬に皺を寄せて。
どんな名前にしよー、なんて呟きながら、彼女は視線を彷徨わせる。
束の間の逡巡。
月に照らされた庭の植木棚に目を止めた彼女は、瞳をキラキラ輝かせてソレを指差した。
「じゃあ、ダリアにする。」
「ダリア?って?」
ソージが、彼女が指す軌道の先に目を向ける。
そこには、先日ソージが植え直した花の鉢があった。