花の名は、ダリア
Ⅴ
静かだ。
あまりに静かだ。
(今日に限って…
なんでだろ?)
団扇片手に縁側に腰掛けたソージは、軽く首を傾げた。
ここ数日、こんなに静寂を感じることはなかった。
生活自体に大きな変化はないのだが、心はどこか浮き足立っていた。
まぁ要するに、近頃ソージは楽しかったのだ。
もう五月も終わる。
ますます身体が重くなり、もうたらいに水を張ることもできなくなった。
ますます食べ物を受けつけなくなり、ますます吐き出す血の量が多くなり…
ますます死の気配を近くに感じる。
それでも、ソージは楽しかったのだ。
このまま心穏やかに瞼を閉じるのも、悪くないと思えるほど。
なのに…
今日は静かだ。
どうしてかって?
答えは明白。
バーサンが来ないから。
時はもう夕刻。
禍々しいほど鮮やかな朱を覆い隠してゆく濃紺の空には、一番星が輝き始めた。
バーサンがこんなに遅くなることなんて、今までなかったのに…
ソージは今度はさっきとは逆方向に、再び首を傾げた。