花の名は、ダリア
軽いステップで跳躍しざま、心臓を貫き。
脱いだ羽織を後ろに放り、『穢れし者』に被せて。
それはもう、束の間の白昼夢。
人々の目から隠された『穢れし者』の身体が塵となり、羽織と共に床に落ちたら…
ハイ、大喝采。
やっぱ大盛り上がりだよ。
誰もが、イベントの演出だと信じて疑わない。
けれど…
ジリリリリリ…
直後に鳴り響いた警報に、会場はどよめいた。
「いいタイミングだ。」
混乱する会場内で、ソージだけがニヤリと笑う。
そう。
ソージがダリアに『押せ』と指示した赤いボタンは、火災報知器。
トラップボタンなんかじゃアリマセン。
どうやら警報と連動して非常放送設備まで起動したようで、
『火災が発生しました
館内においでの皆様は、速やかに非常口へ…』
なんて既製アナウンスまで流れ出す。
もうすぐ避難誘導のために、警備員も駆けつけるだろう。
コッチは演出なんかじゃなく、現実味に溢れてるだろ?
本日のイベントはお開きだ。
刀を鞘に収めたソージが、身を翻そうとすると…
ダレかに袴の裾を掴まれた。