花の名は、ダリア
「い…今のは…」
ソージの退場を阻んだのは、座り込んでガタガタ震える、ステージで歌っていた女だった。
あー… 自己完結は無理そう?
君だけは全部見たもんね。
白刃の惨劇と、塵と化した怪異を。
放置してもいいンだケド…
「夢だ。
忘れろ。」
ソージは思いやりを総動員して身を屈め、腰を抜かす女に覆い被さった。
首筋に牙を突き立てれば、すぐに女の身体から力が抜ける。
これだけ混乱していれば、誰もコッチを見ていないだろう。
本物の火事ではないから、気絶した女を転がして帰っても、問題ないだろう。
さて。
ミッション終了だ。
今度こそ退場しようと、口元の血を拭ったソージは入ってきたステージ袖のドアを開けた。
すると…
開けてビックリ。
目の前にダリア。
大きなぺールブルーの瞳から、大粒の涙をポロポロと零して。
色のない唇をプルプルと震わせて…
「え… え?
どどどーしました???」
「赤いボタンは、やっぱり押しちゃいけなかったの…
どうしよう、ソージ…
私のせいで火事に…」