花の名は、ダリア
バーサンは顔を見せてくれない。
それどころか、ますます腰を曲げて頭を低くする。
「旦那ァ…
本当にスミマセン…
しばらく…来られないかも…」
細かく震える小さな身体。
細かく震える小さな声。
……嗚咽?
「顔を上げろ。」
普段とは全く違う鋭い口調でソージは言った。
驚いたバーサンが、弾かれたように姿勢を正す。
やっぱり彼女の頬は涙に濡れていた。
そして、大切そうに両手でナニカを握りしめていた。
「ソレ、なんだ?
なにがあった?」
眉をひそめたソージが訊ねる。
バーサンはしばらく躊躇う様子を見せたが、やがておずおずとソレを差し出した。
藁で編んだ、粗末な草履だ。
しかも片方だけ。
その上、ソージにとっては今も昔も見慣れたドス黒いシミが、ベッタリと付着していて…
「飼ってる子犬が昨夜から帰ってこなくて…
朝、捜しに出た孫まで帰ってこなくなって…
昼過ぎに、さすがにおかしいってンで近所中を捜し回ってたら…
嫁が…道に落っこってたコレを…見つけて…」