花の名は、ダリア

ハイ、即白旗。

ダリアは今、本土のマリーナで拝借したモーターボートのシートに座っている。

夜の潮風に、ツインテールにしたペールブロンドを靡かせちゃってさ。
喉を撫でられたネコみたいに、目を細めちゃってさ。

人の気も知らねェで、気持ち良さそうじゃねェか。

おまけに、絵の中に閉じ込めたくなるほど幻想的で綺麗じゃねェか。

まるで、淡い光に包まれた月そのもののように輪郭が曖昧で、触れたら揺らいで消えそうな気がして不安になンだよ、クソが。

ハンドルを握り直したソージは、ダリアに気づかれないようコッソリ溜め息を吐き出した。

実は、ね。

彼女を連れて来たくなかった理由は、もう一つあンだよね。

むしろ、ね。

その『もう一つの理由』のほうが、切実なンだよね。

あぁ、不安だ。

ダリアとサムが会うことが。

会って、言葉を交わすことが。

言葉を交わして、サムの真の目的が
「世界を征服するze!」
などではなく、
「『ノエル』を孤独から救う」
なのだと、ダリアが知ることが。

そもそもの始め、サムがビビって冗談混じりに言ったから、ダリアはソレを知らずにすんだ。

前回は、誰もサムの話をまともに聞かないというお気の毒な状況だったから、ダリアはソレを知らずにすんだ。


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