花の名は、ダリア
「ね、タナカ。
修行場を覗きに行った人って、鍵はどうしたの?
地下の入り口、閉まってたよね?」
「あぁ、伯爵の執務室にあるデスクから、盗んだらしいですよ。
ほら、伯爵は昼間、寝室で瞑想してて出てこないでしょ?」
「なるほどね。
日の入りまでは、まだ時間あるわね…」
「え?
ちょ…カオリさん?ナニ考えてンスか?」
「ナニって…
修行場に行って、真実を知るのよ。」
決然と言い切ったカオリは、合宿所に向かって歩き出した。
もうフラついていない。
足取りも軽い。
今のカオリに迷いはない。
リスクがあるのは百も承知だが、『無知を恐れるな、偽りの知識を恐れよ』と、ブレーズ・パスカルも言ったではないか。
真実を知り、その上で信じるモノを決める権利を、誰もが持っているはずだ。
「まじですか!?
マズいですって!!」
タナカが必死で呼び止めても、カオリはもう振り返らない。
躊躇って、躊躇って、躊躇って…
「…
あああぁぁぁ!もう!
俺も行くから、待ってくださいって!」
タナカも原付を押しながら、カオリを追って歩き始めた。