花の名は、ダリア
いや、まじで真っ暗デスヨ。
どんなに壁を手探りしてもスイッチに行き当たらないトコロを見ると、そもそも照明が設置されていないのかも知れない。
「コレは無理だ、ナニも見えないもん。
戻りましょう。
そーしましょう。」
「黙っててったら。
えーっと… あった。
そうだわ、ついでに…」
ビビるタナカを小声で叱咤しながら、カオリはパーカーのポケットからスマホを取り出した。
慣れた手つきで操作すると、すぐにライトが灯る。
ボンヤリとではあるが、それなりに見渡せるようになった地下は、カオリが想像していたよりも『普通』だった。
無機質な白い壁と床。
二人がいる廊下に沿って、いくらかの間隔を空けて並ぶ、これまた白いドア。
パっと見、ただのオフィスだ。
だが、ドアの覗き窓に格子がついているのはナゼ?
それに、この嗅いだコトのない異臭はナニ?
『普通』の中に潜む『異常』を肌で感じ、カオリはゴクリと喉を鳴らした。
ナニが起こったワケでもないのに、無性に恐ろしい。
けれど…
(全部、知らなくちゃ…)
カオリは背中にピッタリ張りつくタナカを振り払い、震える足を踏み出した。