花の名は、ダリア
一番手前のドアに近づき、格子のついた覗き窓からライトを当ててみる。
光に照らし出されただだっ広い部屋の中は、今カオリたちがいる廊下のように無機質ではなかった。
ベースである白の上に黒く見えるナニカが不規則に飛び散っていて、ちょっとしたアートだ。
ますます強くなった異臭に顔を歪ませたカオリが、芸術が爆発する室内を見回していると…
いた。
見つけた。
部屋の隅に蹲る人影を。
「そ…
そこにいるのは… 誰?」
掠れた声でカオリが呼び掛けると、背を向けていた人影が振り返り…
ガーン!
直後に、大きな音を立てて、覗き窓の格子にナニカがぶつかった。
あまりの驚きに声も出せずに硬直するカオリの肩を、背後からタナカが強く引く。
「な…なんなの?
今のは?」
ドアから離されたカオリは、青ざめた顔でタナカを見上げた。
だが…
タナカはもっと青ざめていた。
それこそ、幽霊にでも遭遇したかのように。
「腕だ…
人間の、腕だった…」