花の名は、ダリア

「そんな…
まさか…」


「スポーツ選手の動体視力、ナメないでください。
アレが振り向きざまに投げてくるトコロから、ハッキリ見えてました。
もう充分でしょう?
早くココから」


ガーン!
ガンガンガーン!!

カオリの両肩を掴んで撤退を促すタナカの声は、再び鳴り響いた音に掻き消された。

ドアが揺さぶられている。

中からナニカが揺さぶっている。

まるで、出てこようとするかのように。

カオリは無意識にライトを向けた。

そして、見た。
スポーツ選手ではないカオリにも、今度はハッキリと見えた。

物欲しそうにコチラを見る、白く濁った瞳も。
格子越しにコチラに向かって伸ばされた、爪が剥がれた指先も。
生肉を食べたような、血塗れの口元も。

その口から…


「ガ… ガァァァ…」


おぞましい呻き声が漏れると、呼応するように他のドアも揺れ始める。

ガンガンガンガン…
ガァグガァガガァァァァァ…

修験者なんてココにはいない。
人間なんてココにはいない。

格子の隙間から顔を覗かせる異形の者一人一人にライトを向けながら、カオリは真実を知った。

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