花の名は、ダリア
枝から枝へ。
邪魔な葉を斬り払いながら。
上へ、上へ。
木の頂上付近まで登ったソージは、香りの源を視界に捉えた。
同じく木のてっぺんの細い枝に平然と立つ、黒いマントとアックア・デッラ・レジーナを身に纏った男の姿を。
あー…
なるほど。
コレが完成形なのね。
軟弱にしか見えなかったシャボタイ付きの白いシャツと黒いパンツという服装も、踝まであるマントが追加されただけで、途端に雰囲気が『らしく』なる。
青い目と金の髪、人々を魅了する甘いマスクを持った正統派ヴァンパイア…サムは、優雅な所作でサーベルを抜きながら、月の光の如く柔らかに微笑んだ。
「ソージくん、君を待っていたよ。
僕も剣の腕には覚えがあってね。
もうこの前のようには」
ソージが跳ぶ。
放たれる横薙ぎの一閃。
身体を仰け反らせてソレを避け、木から落ちながらサムが喚く。
「ちょ… 僕まだ話して」
ソージも木から飛び降りる。
放たれる鋭い突き。
落下中に避けきれるものではなく、腹から血を噴き出して地面に叩きつけられたサムが喚く。
「痛い!
待って、待って!?
ちょっと話を」