花の名は、ダリア

本来ならコレは、戦略的撤退なのだ。
ある場所にソージを誘導するための策なのだ。

なのに、気分は完全に敗走。
もしくは必死の逃走。

跳ね上げられた刃で背中を裂かれ、またも大量の血が失われる。

山を下りて補充したいトコロだが…

そんな素振りを少しでも見せれば、動けなくなるほどの斬撃が容赦なく襲いかかるだろう。

耐えろ。
後少し。

アソコに辿り着けさえすれば、この可憐な顔をした黒髪の狂人から、永遠に逃れられる…

サムは息も絶え絶えに、山の中腹のなだらかな崖にそびえ立つ巨木にまろび寄った。

開けた視界。
遠くに、月が映る海。

ボンヤリと浮かび上がる、ビクビクと痙攣する人型のシルエット。

両手で腹を抱えて唸っていて、なんだか調子悪そうだケド…
アレは最後の『穢れし者』。

ソージが振るう刀の軌道が変わる。

拾い食いでもしちゃったのなら、今すぐ楽にしてやるよ。

『穢れし者』の丸めた背に向けて、ソージは鋭い突きを…


(コレが罠かよ、クソが。)


『穢れし者』の傷から僅かな光が漏れた瞬間。

視界の端に、マントにすっぽりくるまって地に伏せたサムを捉えた瞬間。

ソージは悟った。

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