花の名は、ダリア

完全に血の気が失せた顔でサムは訊ねたが…

首を傾げて少し考えてから、やはりダリアはあどけなく笑う。


「難しいコトはわかんない。
でも、私は元々悪魔だし、間違いは正すべきだと思うわ。」


(あぁ…
彼女はもう、壊れている…)


繋いだ手とは反対の手を伸ばしてダリアの頬に浮かぶエクボに触れ、サムは言い様のない絶望感を噛みしめた。

彼女はとっくに壊れていた。

サムが危惧した孤独と寂しさによって、ではなく。

生まれて初めて得た、長い時にも揺るがない絶対的な存在によって。
その存在が与える、絶対的な安心感によって。
その存在に寄せる、絶対的な信頼によって。

ボロボロに傷つき、それでも辛うじてカタチを保っていた彼女の心は、打ち砕かれた。

だがそれは、彼女にとっては幸せな自らの崩壊だったのだろう。

その存在を、神と信じて疑わないほどに。

彼女が愛する美しい生命で溢れるこの世界をも、その存在が失われれば偽りだと信じて疑わないほどに。

そして、壊れた彼女が世界を壊す。

楽しげにはしゃぎながら砂の城を崩す、無邪気な児戯の気軽さで。

そのあまりに愚かで身勝手な、あまりに純粋で激しい感情を、人はなんと呼ぶ?

そう、人はそれを愛と呼ぶ。

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