花の名は、ダリア
美しい人が近づいてくる。
一歩、また一歩と。
微笑みを浮かべたまま。
「花は散るからこそ美しいの。
散って、種子を残して。
種子を残せなくても、見る人の心にナニカを残して。
でも、もし散らない花があったら、人はどう思うかしら?」
あぁ…
どうしてそんなに儚いの?
どうしてそんなに透き通っているの?
「珍しいから、最初は愛でてもらえるかも。
けれど、命の理を逸脱したその花に人はいずれ恐怖を抱き、嫌悪するようになるわ。」
まるで、存在しないかのように…
「片隅に追いやられ、いつか忘れ去られ、見る者もいなくなったその花は、美しいとは言えない。
生きているとも言えない。
それでも永遠に咲き続けなくちゃならない。
本当に忌むべきは死ではなく、永遠の生なのよ。」
ゆっくりとソージの前まで歩みを進めたダリアは、身を屈めて彼の痩せこけた頬を両手で包み込んだ。
そして、額に額を合わせ、そっと長い睫毛を伏せる。
「だから…
ありがとう、ソージ。」
「え…」
「私を見てくれて。
名前を呼んでくれて。
本当に、ありがとう。」