花の名は、ダリア
(これは、別れだ。)
そう悟ったソージが手を伸ばした時には、ダリアはもう目の前から消えていた。
ドコ行った?と、視線を彷徨わせると、既に彼女は塀の上。
手にはちゃっかり抜き身の刀。
ナニソレ?
一瞬だったじゃねェかよ。
忍者のポテンシャル、半端ねェな。
夏の夜の生暖かい風にペールブロンドを靡かせて、ダリアが闇に溶けていく。
今夜は、振り返りもせずに溶けていく。
(今生の別れだ…)
見送ることしか出来なかった。
また、なにも出来なかった。
ずっと自問自答していたことが、ソージの脳裏に蘇る。
俺のしたかったコトって、いったいなんだったンだろ?
考えても考えても、答えは出なかった。
でも、今の自分がしたいコトはハッキリとわかる。
バーサンに恩も返せず死ぬなんて、イヤだ。
『ありがとう』なんて言われっぱなしでダリアとお別れなんて、死んでもイヤだ。
なのに、なにも出来ない。
したいコトがわかっていても、なにも出来ない。
咳込んで、血を吐いて、掌に咲いた禍々しい真紅の花をジっと見つめる。
本当に‥‥‥ 出来ない?