花の名は、ダリア
明かりは灯っているようだが、静まり返った仏殿。
酒を片手に座り込んでいる境内の見張り役たち。
当たり前の光景すぎるのだ。
非力な女とはいえ、異分子が乱入すれば少しは混乱するはずなのに。
ダリアはココに来なかったのか?
とっくに捕えられたのか?
それとも、始末されてしまったのか…
いや、落胆するのはまだ早い。
絶望的な状況の中にこそ、光明は息づいているのだから。
ソージは持ってきた…と言うより杖にしてきた、棒状のモノに巻かれた布を取り払った。
現れたのは、一振りの日本刀。
見るからに使い古した、無銘の刀。
バーサンが思っていた『刀は武士の魂』だとか。
ドコかのダレかが言っていた『剣豪の腕と名刀匠の腕が合わされば、刀は無限に斬り続けられる業物となる』だとか。
んなモンは、お行儀のいい御前仕合しかしたことのないトノサマ剣士の戯言だと、ソージは思っている。
リアルは乱戦なンスよ。
時代劇の殺陣みたいな、決められたステップを踏む剣舞じゃないンスよ。
だから当然、武器である刀の扱いも、本来の用途とはかけ離れた散々なモノになるワケなンスよ。
柄頭や峰で敵を殴打したり。
目潰しカマすために、切っ先を地面に突き立てて土を跳ね上げたり。
時には飛び道具にしちゃったり。
『いってきます』で持っていく刀と『ただいま』で持って帰る刀は、別モノなのが基本ですからね。