花の名は、ダリア
Ⅶ
やっぱり来ていた。
バーサンの孫もろとも、連れ去られた女たちを逃がそうとしていた。
でもって今、食人鬼と化したカシラと対峙している。
ダリアは。
全く、なんて無茶してンの。
もう少しだけ、待ってて?
後少しだけ、待ってて?
もう一度、俺に微笑みかけて?
走って、咳が出て、胸にまで血が滴る。
もう少しだけ、生きろ。
後少しだけ、生きろ。
もう一度、あの人の無垢な笑顔を見るまでは。
「ダリア‼」
蹴倒された木戸を踏み越えて仏殿に飛び込んだソージは、美しい花の名を叫んだ。
「ソージ?」
いた。
出会った夜のように泥棒スタイルで刀を握る彼女の姿を確認すると、やっと周囲の状況も見えるようになる。
仏殿の中央辺りにソージに背を向けて立つ、大柄な男。
ナニをしているのかは見えないが、ビクビクと痙攣する、既に瀕死の男の片足を持っている。
たぶんコイツがカシラ。
ビクビクが気の毒なゴロー。
それから、隅のほうに固まって、目を覆ったりしゃがみ込んだりしながら悲鳴を上げている女たち。
たぶんコイツらが誘拐被害者たち。