花の名は、ダリア
裸足のまま、刀を杖代わりにソージが歩く。
顔をコシコシと擦りだした猫との間合いは、もう三尺ほど。
「旦那…
斬るンですか…」
あまりの緊張で、喘ぐようにバーサンは訊ねた。
「バーサン… 斬れねェよ。
俺には斬れねェ。」
ソージは低く呟きながら片手で猫の腹を持ち上げ、肉が削げ落ちた胸にそっと抱き寄せた。
そして小さな足の裏をフニフニと触りながら振り返り、バーサンに恍惚と微笑みかける。
「肉球持った生き物斬るとか…
罰当たりにも程じゃねェか。」
…
は?
ソレ、ナンテ肉球フェチ?
じゃ、刀はガチで杖代わり?
武士の魂、なんて言うクセに?
そりゃ肉球は神だケド、魂だって大事にしろよォォォォォ!
拍子抜けしたバーサンはグッタリと脱力した。
そんな彼女を、これ幸いとソージが追い返す。
横になって休憩してから、運動がてら割れた鉢を片付けるから、なんて言って。
身体を動かしたほうが、メシももっと旨いしね、なんて言って。
やっぱ嘘ばっかなンだケド、ね。
心配そうに振り返りながら帰っていくバーサンに、ソージは軽く片手を上げた。