花の名は、ダリア
ダリアの傍にいられさえすれば、それでよかったのに。
なんつーチートな生き物になっちまったンだ。
でも…
俺が『貴族』だっつーなら…
「ダリア、貴方はなんなんです?」
滑らかなペールブロンドから手を離したソージは、ダリアの瞳を覗き込んで訊ねた。
「私は…」
途端にペールブルーが悲しげに翳る。
そして、長い睫毛に隠される。
けれど彼女が再び顔を上げた時、その瞳は冷たく輝いていた。
「私は『ノエル』。
始まりであり、母であり、王。
全ての眷属の頂点に立つ、この世で唯一の純血のヴァンパイアよ。」
冷ややかで誇りに満ちた、その言葉。
冷ややかで威圧的な、その声。
なのに…
冷ややかなその瞳が、凍りついた涙の結晶に見えるのは、ナゼ?
怪訝そうに眉をひそめたソージの胸を軽く押して、ダリアが立ち上がる。
「アナタは『貴族』。
けれど、『ノエル』の下僕であることに変わりはない。
アナタには、私にはない致命的な欠陥があるの。」
やはり冷ややかにソージを見下ろして、そう言い放ったダリアは…
足元にあった瓦の破片を真上に蹴り上げた。