小鳥沢2丁目物語
まゆside
...おかしい。
...絶対におかしい。
『この壁一枚向こう側に全裸のさとる...。よし、覗くよ!!』
って言ってるあかりちゃんが目に浮かんでたのに...。
わたしの目の前には、今にも沈みそうになりながら湯船に浸かるあかりちゃん。
覗かない以前にとっても暗い。
「...どうしたの?覗かないの?」
「それどういう意味?!」
あかりちゃんは思いっきり顔をあげてわたしを見つめてくる。
はっ、しまった!
思ったことをそのまま言い過ぎた!!
「うん、ごめん、間違えたの。暗いけどどうしたの?」
「何そのいかがわしい間違え方...」
あかりちゃんは思いっきり苦笑いでわたしから目線を逸らした。
「暗いというか...悩み事があって。」
いつも能天気なあかりちゃんから悩み事があるなんて言葉が出てくるのに少し驚く。
「悩み事ならわたし聞くよ!どうしたの?」
「...さとるにちゅーされそうになって」
「ブッ!!!!!」
「ちょっと!汚い!なんか飛んできた!!」
「ごっ、ごめん!!」
って、それどころじゃない!!!
あのさとるくんが?!
...ちゅー?
「ブッ」
驚きよりも面白さの方が勝った。
ごめん。
悩み事聞いて笑ってごめん。
「ちょ、なんで笑う?!あたし真剣に悩んでるよ?!ねぇ!!!」
あかりちゃんはわたしの肩を掴んでブンブン揺すってくる。
「ご、めん、やっと素直になったんだなぁって思って」
「どういう意味?」
きょとんとわたしの顔を覗き込むあかりちゃん。
わたしが入部した頃はもうすでに両想いだったんだろうけど、絶対気付いてない。
むしろ今も気付いてなさそう。