聖なる夜の奇跡~身分違いの恋~
私と大介は同じ会社に勤めている。
一緒に朝を迎えるけれど、一度も一緒に家を出たことがない。
私達は、別々の電車に乗る。
「じゃあ、行くぞ!見送りもなしか?」
私が去年のクリスマスにプレゼントした紫のネクタイを結びながら、玄関先で私を呼ぶ。
「はい、いってらっしゃい・・・」
行ってらっしゃいのキスを求める大介は、私をときめかせる達人だった。
「昼休みの始まる5分前に、7階のトイレの前に来い」
社内恋愛が禁止されているわけではない。
でも、私と大介は堂々と会社の中で会うことができなかった。
「わかった!7階ね!」
時々、こうしてこっそり待ち合わせをして、ほんの数分だけ会う。
その数分が、どれほど私にとって嬉しいものなのか、大介は知っている。
大介は、私にとって、最高の彼氏。
でも、私達に未来はない。
誰も知らない。
私達の見つめる先に光がないこと。
私達には、月の見えない夜が似合う。