世界にイロを
スーパーの中に入ると冷房が効いていてすっと涼しくなる。
「うわぁ、天国だぁ」
僕が思わずそう呟くとタツミが横で笑った。
「とっとと買い物済ますか」
今日のご飯の材料など足りないものを買ってスーパーから出た。
「あっつぅ…」
涼しいスーパーから出たからかな、さっきよりも暑く感じるよ。
「…う嫌…助けて」
「ん?」
道外れの路地裏へ続く道の前、そんな声が聞こえた。それは僕とタツミだけの様だ。
「どうしたんですか?団長サンハリーサン」
「声がしたんだ」
「声?」
「嫌、助けてって声」
「リョクタロー、荷物頼んだ。先帰ってろ。ハリー行くぞ」
「はーい」
「あっおい待てよタツミ!ハリー!」
タツミがリョクタローくんに荷物を押し付けて走り出す。リョクタローくんの制止の声なんて無視無視♪
路地裏を走り回るけど誰も居ない。
「確かに聞こえたのに…」
「居ない…?」
「うわぁ‼︎」
ガンッ、と凄い音と悲鳴。
「こっちだ!」
また走り出したタツミを慌てて追いかける。
音のした場所に来たけど、誰も居ない
「おーい、誰かいるー?」
「だっ、誰も居ませんっ‼︎」
…矛盾してるでしょ、それ。
ここかな?
「ひっ…」
近くにたくさんある箱を開けると泣いてる異色の女の子。金の瞳に黒い髪。黒い髪はサイドポニーにされている。どうしてこんなとこで泣いてるんだろう?
「ふっ…2人だけですか?」
「あぁ。お前はなんでそんなところに」
「…」
涙を拭って、少女は目を逸らす。
「さっき助けてって呟いたのは…君?」
「えっ!聞こえてたんですか…そうです。私です」
「助けてあげるよ‼︎どうしたの?」
「…私を何処かにかくまってください!」
「へ?」「は?」
僕とタツミがキョトンとしていると女の子は言葉を続ける。
「えと…私アイドルの緑川 友里恵(ミドリカワ ユリエ)、15歳です!ファンの人に追いかけ回されてて、それで今ここに隠れてるんですけど…バレるのも時間の問題なんです!」
「ったく…ちょっとだけ待て。ハリー、こっから人目のつく場所を避けて帰れるか?」
「大通りを抜けなきゃ」
「くそっ…」
「ん?いや待って⁉︎…大通りを抜けずに済む道がある!」
「よし。じゃぁそれで帰るぞ。
緑川、着いてこい」
「へっ?あっ、はい!」
僕、緑川ちゃん、タツミの順で並んで歩く。
「ここ、気をつけないと大通りから見えるからね。走るよ」
「はい」
「タツミ、足…」
「大丈夫だ、問題無い」
「なら…準備はいい?…行くよ!」
一斉に走り出す。僕はセーフ。緑川ちゃんもセーフ。タツミも…足引きずってる。
「大丈夫?」
「一瞬痛んだだけだ」
『なぁ、さっきここ通ったのってユリエちゃんじゃね?』
『うんぽかった!見に行こ』
「ぁ…」
ヤバイ見つかった!みたいな青ざめた顔で立つ緑川ちゃんを引っ張る。
「僕のパーカー着て。フード被って」
慌ててパーカーを着る緑川ちゃん。
「俺追い返すよ」
「タツミ、よろしく。緑川ちゃん、僕がいいって言うまで向こう向いてて」
「は、はい」
「あれぇ?さっきここをこっちに行ったよね?」
「そのはずなんだけど…すみませーん」
「あ?」
「アイドルのユリエちゃん見ませんでしたー?」
「知らねぇ。てゆーか勝手に俺らの領域に入んじゃねぇよ」
「ひっ」
「す、すみません!」
「3秒以内に出て行け」
「はっはい!」
「すみませんでしたぁ!」
2人がアワアワと出ていく後ろ姿を見てタツミは軽く笑った。
「タツミ、行こう」
「あぁ」
「行くよ。緑川ちゃん、そこの角を右」
「はい」
しばらく家への道を進んでいる時、路地裏に足音が響きだす。
(緑川ちゃん‼︎)
(止まれ!)
タツミが小さな声で僕たちに止まるよう指示する。足音に気づいていない緑川ちゃんを僕は慌てて引き止める。
小さく足音がする。遠くからだ。
(だ、誰でしょう…)
(わからないが…こんなとこを通るんだ、普通の人ではないだろう)
(良くてヤクザ、悪くて殺人鬼かな…)
(えっ…)
一瞬で真っ青になる顔と涙目。
(バカ、脅かすな!)
(いやんタツミったら怖いよー)
リリリリリリリ…リリリリリリリ…
緑川ちゃんの携帯⁈
(うわぁぁぁあ‼︎)
(‼︎電源を切れ!)
(足音がこっちに来てる!隠れるよ)
足音がさっきよりも早くなった。走ってるんだ!
僕は辺りを見回して隠れれそうな場所が無いか探す。
…上だ
(緑川ちゃん、この箱を踏み台にして上に)
(はっはい!)
(タツミ…行ける?)
(無理してでも行くさ。どうせお前は何を言ったって1番後ろなんだろ)
(もちろん)
(早くしろよ)
(わかってるよ)
タツミが登り出す。足音はだいぶ近づいて来てる。
(ハリー‼︎)
ヒョイっと箱を踏み台にして登る。身軽で良かった。
(2人は顔出しちゃダメだよ)
(わかった。緑川、しゃがんでろ。)
見つかったとしても僕だけ見つかればいいんだ。
息を切らしながら現れたのは女の子。中学生くらいかな。
あ、紺色の髪…異色?
「………友里恵…どこ………」
(ぁっ‼︎この声!)
(バカ、しゃがんでろ‼︎)
タツミの制止を振り払って立ち上がる緑川ちゃん。
「春樹‼︎」
少女は顔を上げる。空色の瞳。
「友里恵。そんなとこに」
「大丈夫です、知り合いです」
なんて言って笑う緑川ちゃんに僕とタツミは安堵の息を吐いた。
「降りておいでよ」
「うん、わかってる。」
「…気をつけて」
「もう、私はそこまで子供じゃないよー。」
笑いながら降りてく緑川ちゃん。心配だなぁ。今にも滑り落ちそうだよ。
「うきゃぁ‼︎」
「みど「友里恵‼︎‼︎」
少女は咄嗟に緑川ちゃんを抱き上げた…抱き上げた⁉︎
「…だから、言ったのに」
「うぅぅ…ゴメン春樹ぃ」
「気をつけてよ」
少女はそっと緑川ちゃんを降ろす。
えっ、あの子緑川ちゃんより背低いじゃん‼︎
「俺先降りるよ」
「あぁ、待って!僕先降りる!」
タツミは足を痛めてるんだから下に行って支えなきゃ
ヒョイっと飛び降りて着地。
「あっ、箱の上に降りなきゃなんだった…」
「バカかお前は」
「大丈夫ですか⁈あんな高いとこから飛び降りて…」
「あー大丈夫だよーちゃんと着地成功したでしょ?」
「緑川。そいつは猫みたいだから大丈夫だ」
「タツミ。」
手を出してニッコリ笑う。
タツミは僕の手と顔を交互に見る。そしてやっと理解したみたい。
顔を真っ赤にしてる。
「そこ、滑りやすいみたいだから」
「うるさい!」
「ほら、はーやーくっ」
「そんなものいらにゃっ⁉︎」
「うわぁ⁉︎」
タツミが足を滑らして僕の方に倒れてくる。咄嗟に抱きとめちゃったけど…
「うわぁ‼︎ハリー‼︎すっすまん‼︎」
「だから言ったでしょー。そこさっき緑川ちゃんも滑ってたんだから。ほら行くよ」
タツミの手を取ってゆっくり降りてく。
「うぅ。あんとき滑らなければ…」
「滑っちゃったものは仕方ないよ」
地面に降りたらタツミの手を離す。
「春樹、よくここがわかったね」
「人が話してた」
(ねぇ、タツミ)
2人が話してる隙に、こそっとタツミに話しかける。
(…なんだよ)
(今気づいたんだけどさー…あーやっぱいいや。)
(あ?なんだよ)
(なんでもない)
2回もキスしてるんだから手を繋いだくらいで恥じらう意味無いんじゃないかなーって思ったんだよね。