正しい小鳥の愛し方【愛を知る小鳥 特別番外編】
「あれ・・・潤?」

不意に後ろから名前を呼ばれて振り返る。数メートル先に見覚えのある女性がこちらを見ていた。
・・・・・まずい。

「やっぱり潤じゃない!久しぶりね。よかったら一緒にどう?」

その女性は一気にこっちまで近付いてくると、俺の隣の空いていた席に腰掛けた。

「いや、申し訳ないけどそれはできないよ」

俺は一応愛想笑いを貼り付けてすぐに断った。だが相手はまだ引こうとしない。

「なぁに?別に今夜この後付き合ってなんて言ってるわけじゃないでしょ?お酒の一杯くらい付き合ってくれたって・・・・あら?お連れさんがいたの?ごめんなさい、気付かなくて」

あぁ、なんて白々しい。
お前が真っ先に隣の美羽を見ていたのはとっくに知ってるんだよ。
知った上でわざとそうしたくせに。
卑しい笑顔で美羽を見下す姿が酷く汚らしく見えた。


・・・どうして俺が適当に遊んできた女はこうも性格が歪んだのばかりなんだ。
・・・なんて、何も考えずに適当な付き合いをしてきた俺に言える資格はない。
今この目の前にいる女だって、学生時代に一度関係をもっただけでほとんどどんな女だったかすら覚えてもいないが、それでも自分が受け入れていたのだから周囲から責められても文句一つ言えない。


「悪いが一切相手はできない。他をあたってくれ」

俺が無愛想にそう言い切ったのが気に入らないのか、女は明らかにムッとした顔を見せた。
その時、俺の左手に指輪がはまっているのに気付いたのを俺は見逃さなかった。ハッとして美羽の左手も確認すると、驚いたように目を見開いていた。
あの俺が結婚したなんて信じられない、おおかたそんな事で頭がいっぱいなんだろう。
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