正しい小鳥の愛し方【愛を知る小鳥 特別番外編】
帰りの車の中でも美羽は終始ご機嫌で、よほど今日が楽しかっただろうことがわかる。
一体何がそんなに楽しかったのか。思わず何をしたのか聞きそうになったが、彼女が自分から話さない限りそれを聞くのは無粋な気がした。

「そういえばなんかやけにいい匂いがするな」

家の中に戻ってくると、俺はずっと気になっていたことを口にした。

「あっ、そうなんです!今日初めてデパ地下に行ってみたんですけど、デパ地下って凄いですね!もう全部がおいしそうであれこれ食べたくなってしまって困っちゃいました。それで、いくつか買ってきたので今日はそれで夕食にしませんか?」

デパ地下話でそこまで目をキラキラ輝かせながら興奮気味に話す姿がおかしくてたまらない。彼女にとってはデパ地下すら初体験で、出会うもの全てが宝物のように新しい発見なんだろう。

「・・・潤さん?」

何も返事せずただじっと見つめるだけの俺を不思議に思ったのか、美羽は首を傾げてこちらを見上げている。俺はそんな彼女の体をそっと引き寄せると、腕の中にギュッと抱き込んだ。彼女は一瞬驚いていたが、すぐに体から力が抜け、そのまま俺に体を預けてきた。

「お前の楽しそうな顔を見てるとこっちまで嬉しくなるよ。・・・でもとりあえずは俺が充電」

そう言って手の力を強めると胸の中から美羽がクスクス笑う声が聞こえてきた。

「私も、離れている間もずっと潤さんのことを考えてました。次は潤さんと一緒にお出かけしたいです。・・・いいですか・・・?・・・って、いひゃいでふ」

どこか控えめに聞く彼女の頬をむにっと優しく引っ張って笑いながら言った。

「なんでそんなに遠慮がちなんだ?いいに決まってるだろ。お前のおねだりなら俺はなんだって聞いてやるよ」

美羽は解放された頬をさすりながら俺を見ると、やがて満面の笑顔で頷いた。


その時の俺は、彼女が最近どこかおかしかったことなんてすっかり忘れていたんだ。
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