褐色のあなたに水色のキミ
「みんなから『マコ』って呼ばれてるから、それでいいです」


アールグレイのカップに視線を落としたまま、ひとり言のように呟いた。


「私、名刺とか持ってないんですけど」


名前を名乗ろうとした時、福岡さんが突然立ち上がり、伝票を握りしめると、窓の外に視線を向けたまま、言った。


「いいんです。名前を知ってもらえただけで!」


「えっ⁉︎」


「今日は、ありがとうございました!」


「あの…福岡さん?」


福岡さんは、私の呼びかけに視線を向けることもなく、そのままレジに向かった。


なんで、帰ったんやろ⁉︎私が緊張してあんまりしゃべらんかったから、逃げて帰ったん⁉︎


名前を知ってもらえただけでいい…って、どういう意味?


窓の外に視線をやった。秋風がいたずらをして、OL風女性のスカートをめくっていた。


そんなどうでもいい光景を、カプチーノを飲みながら、ぼんやりと眺めていた。カップがカラになっても、しばらくぼんやりと過ごした。







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