人鬼姫
壱
◆1◆
紫苑は、暗い夜道をひとり歩いていた。
月はでているものの、そこまで明るくはない。女が1人で歩くには危険な道だ。
そんな中、紫苑はあることに気が付いた。
どう考えても、自分以外の”もの“の足音がするのだ。
それは、獣かなにかの足音のように聞こえるものだった。
紫苑は太刀を引き抜き、腰を低く構える。
不意に、嫌な生暖かい風が吹いてきた。その風を頬に受ける。
足音はどんどん近くなる。
がさっ、がさささっ。
草の茂みを掻き分けるような音まで聞こえてくる。
ここら辺はあまり人が来ないので、やはり獣かなにかなのだろう。
一歩一歩、音のするほうへと近づいてゆく。
もちろん、刀は片手に握ったままだ。
紫苑の脳裏には、鬼という種族が思い浮かんだ。
鬼は、自分が最も恨むべき存在である。
紫苑は左の拳を握り締め、口を開いた。
「鬼か。鬼ならば早く出てきて」