人鬼姫
紫苑が低い声で問うと、“そのなにか”は茂みを掻き分けて姿を表した。
「紫苑!?」
目の前には紅の瞳を持った、仲間である青年、紅丹臣が立っていた。
なんでいるんだよ!?
紅丹臣は驚いたような顔をしている。
紫苑は、盛大なため息をついた。
「紅丹臣!? なんで君はこんな所にいるの」
「紫苑こそなんでこんな所にいるんだよ」
私が聞いているのになんで答えないの。鬼かと思ったじゃないの。
そう言いたいが言葉にならない心の叫び。
「お前、俺のことを鬼だと思うなんてな。く、くくくっ」
唇で孤を描く紅丹臣。その目は顔が赤くなっていく紫苑を見て楽しんでいるように見える。
「そんなこと言ったって、仕方ないじゃない! だいたい、君は何をしていたの」
「俺は、鬼を探してた。ここら辺は鬼の住みかだろ?」
紫苑の顔つきが変わった。先程まで笑顔だったのだが、急に険しくなったのだ。
刀を一度振って、鞘にしまう紫苑。
「私たち鬼の血を引くものは、鬼を許してはならない」
「……人間にも、心を許してはならない、だろ」
紅丹臣も先程までのへらへらした態度ではなく、凛々しい顔つきになっている。
紫色の瞳、紫苑の瞳が、ゆっくりと揺れた。
「人鬼姫は、争いごとの道具なの。所詮、道具でしかないのよ」
そう言った紫苑は、酷く悲しそうだった。
紅丹臣は、そんな彼女に何も言えずに、ただただ紫苑を見据えていた。