人鬼姫
紫苑は目を閉じ、耳を澄ませた。
鬼と人の血を引いている紫苑は、それらの優れているところを受け継いでおり、聴覚も人間より優れているのである。
と、ふいに足音が聞こえてきた。まだ一キロくらい先だろうか。
目を開き、下を向いている紅丹臣に声をかける。
「紅丹臣、君も耳を澄ませてみて。聞こえない?」
「聞こえるって……なにがだよ」
いいから、と言われ紅丹臣は耳を澄ませてみる。
すると、何者かが走っているらしき音が聞こえてきた。
「これってさ、もしかして」
「そう、鬼……あ、紅丹臣! 空!」
空を見れば、鬼が飛んでいるではないか。
「本当だ。紫苑、俺は下をやるから紫苑は空を……っていないし」
紫苑は既に空を飛んでいた。鬼は妖力を使い、空を飛ぶことが可能なのだ。
絶対に、許さない──。
そう叫んだ紫苑は、太刀を引き抜き、鬼の心臓目掛けて突き刺す。
鬼は呻き声を上げながら地面へと落ちていった。
他の鬼たちが息をのむ。
これが噂の、鬼斬り娘なのだと悟ったようだ。
「くそ……はあっ!」
叫びながら鬼も必死に戦うが、紫苑の力は半端ではない。とても娘の力ではなかった。
それもそのはず、紫苑はただの娘ではない。
鬼の王と人の姫の間に生まれた伝説の娘なのだ。
キイン、と刀の折れる音がする。
紫苑が、鬼の刀を折ったのだ。その鬼の心臓へと刀を突き刺し、息絶えさせる。
それを繰り返しているうちに、最後の1人となった。
その鬼は、びくびくとおびえている様子で、刀を握る手が小刻みに震えている。
「あ、あんた! 一体何者なんだ! 普通の人間とは思えねえ!」
「私? 私は……」
ざくっ。心臓に刀が刺さる。
「紫苑。あなた方の王、朧の娘よ」
その鬼は目を見開いて、地べたへと落ちていった。