レジスタと魔法譚
「俺も戦う」
戦火に包まれた集落を放っておくこともできず、少年は刀を抜き放って言った。
「ならぬ」
長である父は、年老いた体をはって少年を阻んだ。
「おのれは逃げよ。
ドリアードの血を絶やすでない」
父は自らの愛刀を抜くや、戦火へと飛び込んでいった。
敵にひれ伏し、言うがままにされてまで生き延びることは、ドリアードの誇りを穢す行為だ。
誇りを穢すくらいなら、逃げるか死ぬかのどちらかにしろ、と父は言いたかったらしい。
少年は父に従い、逃げることを選択した。
背後から敵が迫ってくる様子はない。
夕焼けの色が空から消え、宵闇が天を彩っている。
もうじき、夜が来る。
少年は悔しさに口唇を噛み締めていた。
やがて悲鳴が聞こえなくなり、葉擦れの音ばかりが耳に入るようになった。
皆殺しにされたか。
もしくは捕まったか。
少年の脳裏には、次々とあの“黒いもの”に呑み込まれ、白骨に変えられてゆく人々の姿が浮かんでやまない。
(くそっ)
魔法士を相手にしているならまだしも、非魔法士の民を相手に魔法を使うとは。
なんたる卑劣。
あの白布たちは、集落を守ろうと戦う民たちの誇りを、魔法で蹂躙したのだ。
(この屈辱、必ずや!)
少年は手綱で馬を引っ叩くと、さらに早く森の中を駆けていった。