雨の日は大声で歌をうたおう
Vol.4 キスがしたい

高1で好きだったのはワタナベくんだったのだが
高2で好きになったのはトミナガくんだった。
今から思えば、松山ケンイチ似で
私は昔からあの手の顔が好きなんだな。
体育祭で一緒に準備したりして
自転車で2人で出掛けて
当日使う音楽を探しに行ったりした。
多分その時いろいろ話したりして仲良くなったんだけど
なんせ極度の恥ずかしがり屋で
自意識過剰であった私は
体育祭が終わったら、またあまり話さなくなって
あ~あ、なんて残念に思っていた。

3年になり、私は文系クラス、彼は理系クラスと離れ離れになった。
ある日別のクラスの女子が
「品川さん(旧姓)ってどの子?」と聞きにきて
後から聞いたら、その子はちょっと前にトミナガくんに告白したんだそうな。
トミナガくんは品川さんが好きだと答えたとかで
どんなやつなのか見に来たらしかった。

告白をしたら、もしかしたら、トミナガくんと付き合っていたかもしれない。
でも恥ずかしくってそんなこと絶対できなかった。
惜しいことをした、と今ほぞを噛む思いだ。
私はトミナガくんとキスをしたかった。

あの頃、私はキスというものがしてみたくて
愛猫のペットフード臭い口にキスしてみたり
自分の上唇と下唇を意識してくっつけてみたり
手の甲に唇を押し付けてみたり
今から思うと馬鹿みたいなことを
真剣に妄想いっぱいでやっていた。

高校を卒業して東京の大学に入学し
一人暮らしを始めて、私は完全なる大学デビューで
遊びまくっていた。
キスをする機会はすぐやってきた。
こんなもんか、と思った。
唇をくっつけるだけじゃ
大して気持ちよいもんじゃないんだなとも知った。
そして誰からも習っていないのに
舌を入れるとそれなりに快楽が増すんだなと学んだ。

今、パートナーがいる身なので、いつでもやろうと思ったらキスはできる。
でも叶わない思いだからこそ、
甘酸っぱい、マックスの緊張感の中で
前歯がカツンと当たるようなキスがしたい。
高校時代のトミナガくんと。


松ケン似だしね。
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