*とある神社の一人ぼっちな狐さんとの、ひと夏の恋物語*
林檎飴に映る恋心


七月下旬。

蝉の鳴き声も本格的になり、
もう風物詩とは言えないレベルで煩い。



「はぁ、っ・・・狐さーん?」

その日も神社に訪れていた私は、
狐さんを探していた。
神社には誰もいなくて、
仕方なく、大木の階段を上っている始末。
相変わらず長い。




「・・・おい、朱里とやら。」

「っ・・・!」


階段の上の方から名前を呼ばれて見上げると、
そこにいたのはあの日の天狗だった。
思わず後ずさりしてしまう。
が、そこに地面はなく、後ろに身体が反る。


「きゃーーーーーっ!?」

「っ・・・バカ!!」


グッと抱き寄せられて、
抱きとめられる。
思わぬ近距離に思わず身体が硬直する。


「もう何もしない。
あいつの獲物を横取りしても面倒なだけだからな。」
「そ、そんなこといって食べるんですかっ、」
「はぁ?」
「ひぃっ!」


抱きとめられていた身体が離れ、
両頬を引っ張られる。


「いでででででっ・・・!」
「色気もない小娘が生意気な口を聞きおって・・・。」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「ったく。」

呆れたような顔で両頬から手を離した天狗は、
「で、何しにきた。」と問う。


「狐さんが神社にいなくて。」
「あぁ、あいつなら盆祭りの準備で外出中だ。」
「え、そうなんですか・・・。」


じゃあ今日は会えないのか。
・・・なんか寂しいなぁ。




ポン、と不意に頭に手が置かれる。


「そんな寂しそうな顔するな。」
「へ?」
「アホ狐じゃないが、俺は暇だ。」
「え、っと・・・?」
「あぁ、頭が悪い娘め。
俺が相手してやるって言ってるんだ。」
「いえ、結構です。」
「おい・・・。」



なんだ、天狗もいいとこあるじゃないか。
そういうとまた怒られそうなので、
今は黙っておくことにした。
< 10 / 34 >

この作品をシェア

pagetop