*とある神社の一人ぼっちな狐さんとの、ひと夏の恋物語*
「えぇ・・・。」と
天狗が口をとがらす。
「えぇ、じゃありません。」
少女にそう言われる天狗はまるで子供に見えた。


「お仕事ってなんですか?」
「お前は知らなくていい。」
突然の線引きに驚いてしまう。
天狗の目は冷たく、
初めて会った時の出来事が鮮明に思い出される。
「天狗様、その方は?
普通の人間の小娘に見えますが。」
「そーそー、そのとおり。
ただの人間の小娘。あ、アホ狐のお気に入り。」
「誰がアホ狐だ、クソ天狗。」
「狐さん!」


突然会話に入ってきた狐さんに、胸が高鳴る。
さすがに暑いらしく、袴を上半身をめくり下げ、
その手には扇子をもっていて、首元を扇いでいた。


「おかえりなさい!」
「あぁ、ただいま。
・・・くそ天狗と何してたんだ?」
「あぁ、おしゃべりです。
狐さんに会いに来たんですけど、
ちょうどいなかったから・・・。
あと、林檎飴ももらいましたよ!」

私が答えると、
「あぁ、そう。」と狐さんは短く答え、
「じゃあ、朱里もらっていくから。」と天狗に言った。

いつもよりワントーン低い声に
狐さんの不機嫌さが伝わってくる。
私なんか気に障ること言ったかな。


「フン、勝手にしろ。
俺は今から仕事だ。行くぞ、烏。」
「はい。」


そう言った天狗は、”烏”と呼ばれたその少女とその場から消えた。
消えたその場に小さな風が起こる。
それに巻き上がる葉っぱを見ていると、
「朱里、おいていくぞ。」と声がかかった。


「狐さん、待ってくださいっ、。」
いつもなら待ってくれるその足も、
止まらずに進むものだから、
少しあいた狐さんと私の距離がすごく、遠く感じた。
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