*とある神社の一人ぼっちな狐さんとの、ひと夏の恋物語*
病室から出ると、
「立花朱里さん・・・ですか?」と呼び止められた。
「はい・・・?」
振り返ると、赤い目をした二人の男女。
若いけど、指にはめてあったリングを見て、この二人が夫婦だと分かった。
「208号室の、矢野です。」と男性が言う。
208号室、と聞いて、お母さんが火事になったアパートに助けに行った子供の両親であることに気が付く。
「お子さんは・・・。」
その二人の姿を見つめながら聞く。
二人は顔を見合わせて少し苦笑いする。
「娘は・・・助かりました。
少し後遺症が残る可能性もあるみたいなんですけど・・・、」
そこまで言った女性が「うっ、」と嗚咽を飲み込む。
そんな女性の肩を抱いて、男性が、「立花さん、・・・貴方のお母さんが、お亡くなりになられたと、・・・聞いて、」と涙を流しながら言葉を紡ぐ。
「私たちがこんなこと言う義理はないんですけど、・・・本当に、本当に、ありがとうございました・・・!!」
二人が頭を下げた。
大人に頭を下げられたのは初めてだった。
その姿を見て、改めて”家族”の温もりを感じた。
私の出ない涙を流す彼らに私は、
「お子さん、良かったですね・・・!大切に、・・・大切に、育ててあげてください。」
そう声をかけていた。
「はい」と返事をする彼らに一礼をし、
私はその場から去った。


長い長い病院の廊下を歩く。
しばらく行くとロビーにでた。
そこにある光は自販機くらいだったが、その暗さに怖さを感じる自分もいなかった。
「どうして、涙、でないの・・・?」
悲しいのに。さみしいのに。
どうしようもなく不安なのに。
また温もりに触れたいのに。
どうして。どうして。どうして。
「私が、わかんないよ・・・・。」


気づけば、私はそのロビーの椅子で、深い眠りに落ちていた。
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