*とある神社の一人ぼっちな狐さんとの、ひと夏の恋物語*
犯してはならない禁忌


狐さんと暮らし始めて数日後のこと。
「おはよう、朱里。」
「おはようございます、狐さん。」
慣れない挨拶が少し恥ずかしい。
でも嬉しかった。
「あ、そうだ。」
「ん?」
「私、今日出かけてきます。」
「どこに?」
「学校です。
もうお金とか払えないし・・・、
退学手続き出そうと思ってます。」
「・・・よくわからないが、
出かけるならついていく。」
「え、ついてきてくれるんですか?」
嬉しくてつい声が上ずる。
その声に少し笑った狐さんは「あぁ」と短く返事をした。


出かける準備をして鳥居を背もたれにして腰をおろしていると、狐さんも用意を終えて来た。
その姿は普通の大学生で、新鮮で。
少し胸が高鳴った。
「変か?」
不安そうにそういう狐さん。
「いえ、かっこいいです。」
「・・・そうか。」
頬を染めて微笑む狐さん。
・・・反則だよ。


その時、神社の奥の階段を上がったところにある大木では、だるそうに欠伸をしている天狗の姿があった。
「あーあ・・・朱里め。
あれは完全に恋してる顔じゃないか。
そのままでいろと言ったのに。
・・・釘を刺さないとな。」
彼は冷たく見下ろしながら、
近くにあった枝を片手で折った。
平穏な日々は、
何か起こる前の前触れだとでもいうように。
< 29 / 34 >

この作品をシェア

pagetop