*とある神社の一人ぼっちな狐さんとの、ひと夏の恋物語*


「ん・・・・。」

目が覚めると、
天井に吊るされていた風鈴が目に入った。
夏の風物詩だ、とノンキな私の視界に、
突然頬に赤い模様の入った、
無駄に整った顔が現れた。


「ふわっ、?!」
「おい、顔を見てその反応はなんだ小娘。
しかも恩人に向かって。失礼だ。」
「え、恩人?」
「そこの駅で倒れそうになったお前を、
俺がここまで運んでやったんだろうが。
人間の小娘は礼儀もしらないのか。」


いや、貴方の口から出てるその言葉もなかなか辛辣で無礼ですけどね、なんて言ったらまたグチグチ言われそうで、言葉を飲み込んだ私。
うん、えらい。なんて大人なの。


「えっと、とにかく・・・
助けてくれてありがとうございます。」
「フン。」
「ちょっ!?」
「・・・小娘、名は?」
「え、立花朱里・・・です。」
「朱里か。・・・ちょっと待ってろ。」
「え?」


そう言ってその人は出て行ってしまった。
窓からはオレンジ色の光が差し込む。
それが夕日だと気づいた私は、
あわてて立ち上がる。


「今、何時・・・?!」


ガラッ、とドアを開くと、
少し先には大きな鳥居。
そこまで足を運ぶと、長い階段。
その階段の先には、
私の乗り過ごした駅が見えた。


「おい、小娘・・・。」
「うわっ、?!」


後ろからかけられたその声に、
思わず飛び上がる。
そこにいたのはさっきの人で、
手には団子を持っていた。


「あのっ、私もう帰らなきゃ・・・。」


私がそういうと、
その人は酷く暗い表情になった。
さっきまで私を馬鹿にした態度がウソみたいに。


「・・・そうか、人間の小娘は帰る時間か。」


そう呟くものだから、
どこか胸が締め付けられて。
夕日が差していたせいか、
その顔がすごくかっこよく見えただけなのか。
今思えば、その人の瞳は金色で、尻尾もあって
頭からは耳のようなものが生えていて、
人間じゃない、そう思ったのもその時だったのに。

不思議と、受け入れる自分がいて。





「また、会いに来てもいいですか。」

そう言ってしまった自分もいた。




これが、私と貴方の出会った日で。
その日の別れ際に頭上にあった金色の空は、
今も忘れられない空の顔だった。
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