*とある神社の一人ぼっちな狐さんとの、ひと夏の恋物語*
「ただいまー!」
「あら、朱里。おかえり。
ご機嫌じゃない、どうかしたの?」
「うん、ちょっとね!
今日のご飯、何ー?」
「肉じゃがよ。」
「わぁ、私お母さんの肉じゃが大好き!」
「ふふ、ほら、お風呂入ってきなさい。」
「はーい!」

私の家庭はすこし複雑。
私がお母さんのおなかにいる時に、
働きすぎの過労死で亡くなった。
それからお母さんは女手一つで私を育て、
仕事に行きながら家事もこなしている。
たった二人で、小さなアパートに住んでいる。
でも私にとってその日常だって大切なもので。
「可哀そう」なんてとんでもなくて。
今が幸せだった。
今はただ、早く大人になって、
お母さんに楽をさせてあげたかった。

「ふぅ・・・」

湯船につかり、ため息を吐く。
目を閉じると狐さんの顔が浮かんだ。
整った顔立ちに、ふわふわした尻尾。
頬には赤い模様、耳まで生えて。
人の近づかない駅の神社に住んでる。
普通なら怖い、っていうか、
不気味がるんだろうけど・・・。

「・・・のぼせてきちゃった。」







「いただきまーす!」
「お母さん、先に寝るから片付けておいてね。」
「はぁい。」

私が肉じゃがをほおばると、
お母さんは部屋へ入って行った。



少し顔色がおかしいと思ったのは、
気のせいかな_______
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