*とある神社の一人ぼっちな狐さんとの、ひと夏の恋物語*
「狐さんっ、」
「ん?」
「は、やい、です・・・っ、」
「まだ半分ものぼってないぞ。」

呆れ顔で私を見る狐さん。
いや、この階段が長すぎるんですよ。
神社から駅までの階段とは比べ物にならない。
それを身軽にのぼる狐さんを見て、
初めて人間じゃないと思った。
夏なのに、汗ひとつかいてない。
いや、まぁ、私の運動神経の問題かもですけどね。

「ほら。」
「え?」
急にしゃがみこむ狐さん。
「背負ってやる。」
「えええっ?!」
「嫌か?」

い、嫌じゃないですけどっ、
いくらなんでも恥ずかしい・・・。
心で叫ぶが言えるわけもなく。
次の瞬間には言われるがままに、
狐さんの背中に背負われていた。



「軽いな、ちゃんと食べてるのか。」
「失礼な。うちは貧乏ですけど、
ちゃんと食べてますよ。」
「手足も細いしな、胸もない。」
「サラッとセクハラです。」
「セクハラ・・・?」
「いや、もう、なんでもないです。」

頭上で小鳥がさえずる。
木のトンネルの中を通っているような、
少し太陽の光が差し込んでいる階段は、
少し幻想的で、見とれてしまう。


「ほら、ついたぞ。」
そこには、一本の大木があった。
大木の幹にはお札のようなものがまかれていた。


「少し、そこらへんで待っていろ。」
「はーい。」
狐さんは向こうの方に消えて行った。
大木に腰かけ、空を見上げる。







「おやおや、客人とは珍しい。」
どこからか聞きなれない声がする。
「可愛らしい人間の娘だ。
どれ、少し味見してやるか・・・。」


「っ、」


気づけば目の前に不気味に笑う男の人。
でもその背中には黒い翼のようなものが生えていた。
下駄をはいているその足の爪が伸び、
まるで獣の爪のようだった。
手に無性に汗をかいているのを感じる。
背中がひんやりとする。
恐怖感だとわかるのが、一瞬遅れる。


「おびえなくとも、一瞬で喰らってやろう。」
ニヤ、と笑いながら手が伸びてくる。




_____狐さんっ、







「っ、?!」


目をぎゅっとつぶった次の瞬間、
私の腕が横に引っ張られた。





「くそ天狗、俺の娘に手を出すな。」
「狐さんっ、」

私はいつの間にか彼の腕の中にいた。
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