キミとの温度
「わたし…」
「良いよ、それ以上言わなくて」
「でもっ」
「言ったら泣いちゃうでしょ?
最後くらいは笑っててよ」
そう言って、笑っていた。
泣くのを抑えたつもりだったけど、やっぱり無理だった。
「ほら、また泣いてるじゃん」
「うぅ…だってぇ…もう会えないのにっ」
「会えるよ、きっと」
「…え?」
「これ、あげる。
俺に会いたいなら、これを持ってて」
渡されたのは、小さな鍵のキーホルダー。
「俺はこっちの鍵穴持ってるから」
「…うん」
「これ、世界で1つしかペアないんだって。
互いに会いたいと思ってたら、きっとこの鍵たちが導いてくれるはずだから」
鍵が、導いてくれる…
わたしは、貰った鍵をぎゅっと強く握った。
「だからきっと、また会えるよ」
「うん!」
「遅くなると心配するだろうし、そろそろ帰ろうか」
“陽菜”
名前を呼んでくれたのは、この日が最初で最後だった。
そのまま、彼は東京に戻っていった。
淡い期待を抱いてみたけど、やっぱりそれ以降夏休みに彼に会うことはなかった。