狂い狂ってまた明日
それから浅倉はよく私につるんで来た。
その度に女子の視線は突き刺さり、私の心は謎の罪悪感に襲われる。
「ねぇー、右京。最近浅倉くんと仲いいよねー」
美香が私に話し掛けてくる。
今は昼休み。各々弁当を持ち寄りわいわいと談笑していた。
「...あいつが勝手に寄ってくるだけだけどね」
胃が痛くなるような話題を断つべく、話を終わらせるように私は答えた。
しかしこの空気読めない女は。
「あ!そういえばさぁ!右京今度の運動会の二人三脚、浅倉くんと一緒だよね!」
初めて聞いたとんでもない話題にぶっ、と私は口に含んでいたお茶を吹き出した。見事にスカートは濡れ、お弁当にも少しかかってしまった。最悪だ。
「...は?知らないんだけど」
「え!?...ってあ、そうか!右京その時お腹痛くて保健室行ってたもんね!」
「イヤイヤイヤ。まずどうしてそうなったか説明してくれないかい?」
美香は、うーん、と考える仕草をすると言う。
「なんかね、浅倉くんとなりたーいって女子がたくさん居て、喧嘩になったの」
「うん」
「で、浅倉くんが『いつも相前さん一人で可哀想だから俺、相前さんと組むよ』って言ってそうなったの」
「...失礼な」
何が一人で可哀想だ。余計なお世話だ。
また無性に腹が立ち、乱暴にペットボトルを置く。
それを見た美香が急に神妙な顔付きになった。
「...右京は浅倉くんの優しさを素直に受け取らなきゃ駄目。人としてサイテーだよ」
そう言うと美香は去っていった。
「何がサイテーだ」
丁度いい。煩いのが一人消えた。
私は静かになったところで、食事を再開した。
「さっき美香ちゃんと喧嘩してたよね?なんで?」
授業が始まる前、浅倉が聞いてきた。
正直答えたくなかったが、面倒くさい事になるので答える。
「...お前の優しさをちゃんと受け取れだってさ」
「へぇ」
浅倉がにやにやする。
「...気持ち悪いんだけど」
「 」
「は?何て言ったの?」
「別に?」
聞こえなかったフレーズが何なのか、私はまだ知らない。いや、知りたくもなかった。
次の日。
一時限目は理科だった。
元々理科は好きだし、得意なので楽しみだ。
...あいつが居なければ。
今日は生憎解剖だ。しかも席の関係で浅倉と同じ班なのである。
「カエルの実験だってさ」
さっきからしきりに話し掛けてくる浅倉を無視し、私はナイフを手に取る。
「ねぇ、知ってる?」
無視される事を分かってるくせに話し掛けるこいつの精神力が分からない。
カエルを切り裂きつつ、少しだけ耳を傾けてやる。
「頚動脈ってさぁ、簡単に切れるんだよね。これを切ってしまえば生き物は大量出血で死ぬ。そんな大事な脈が何でこんなに切りやすい所にあるんだろうね?」
そう言うと浅倉は私の首に触れる。周りの女子から悲鳴があがった。
「手首もそう。神様は何でこんなところに頚動脈を通したんだろう?」
「...知らないよ」
「しかもこれ、ナイフで何回か弄れば簡単に...切れちゃうんだよね」
そう言うと浅倉はカエルの心臓近くの血管を切った。
びしゃっ、と赤い血が浅倉にかかる。
「あーあ、シャツ汚れちゃった。...まぁ、いっか。これは頚動脈かどうか分からないけど、少なくともカエルはここを切られたら大量出血で死ぬ。つまり人間の頚動脈と同じ」
そうして浅倉は笑う。
でもいつもの笑いじゃなかった。血のせいかもしれないが、少なくともいつもの王子様スマイルではなかった。
何かを裏に隠したような...そんな笑み。
「つまり何が言いたいかって言うと、人間って簡単に死んじゃうんだよね。だからいつ死んでもおかしくない。だから...」
浅倉はぐっ、と私の耳に顔を寄せ、確かにこう言った。
「のうのうと毎日を生きているバカ共見てると無性にイライラするんだよね」
その度に女子の視線は突き刺さり、私の心は謎の罪悪感に襲われる。
「ねぇー、右京。最近浅倉くんと仲いいよねー」
美香が私に話し掛けてくる。
今は昼休み。各々弁当を持ち寄りわいわいと談笑していた。
「...あいつが勝手に寄ってくるだけだけどね」
胃が痛くなるような話題を断つべく、話を終わらせるように私は答えた。
しかしこの空気読めない女は。
「あ!そういえばさぁ!右京今度の運動会の二人三脚、浅倉くんと一緒だよね!」
初めて聞いたとんでもない話題にぶっ、と私は口に含んでいたお茶を吹き出した。見事にスカートは濡れ、お弁当にも少しかかってしまった。最悪だ。
「...は?知らないんだけど」
「え!?...ってあ、そうか!右京その時お腹痛くて保健室行ってたもんね!」
「イヤイヤイヤ。まずどうしてそうなったか説明してくれないかい?」
美香は、うーん、と考える仕草をすると言う。
「なんかね、浅倉くんとなりたーいって女子がたくさん居て、喧嘩になったの」
「うん」
「で、浅倉くんが『いつも相前さん一人で可哀想だから俺、相前さんと組むよ』って言ってそうなったの」
「...失礼な」
何が一人で可哀想だ。余計なお世話だ。
また無性に腹が立ち、乱暴にペットボトルを置く。
それを見た美香が急に神妙な顔付きになった。
「...右京は浅倉くんの優しさを素直に受け取らなきゃ駄目。人としてサイテーだよ」
そう言うと美香は去っていった。
「何がサイテーだ」
丁度いい。煩いのが一人消えた。
私は静かになったところで、食事を再開した。
「さっき美香ちゃんと喧嘩してたよね?なんで?」
授業が始まる前、浅倉が聞いてきた。
正直答えたくなかったが、面倒くさい事になるので答える。
「...お前の優しさをちゃんと受け取れだってさ」
「へぇ」
浅倉がにやにやする。
「...気持ち悪いんだけど」
「 」
「は?何て言ったの?」
「別に?」
聞こえなかったフレーズが何なのか、私はまだ知らない。いや、知りたくもなかった。
次の日。
一時限目は理科だった。
元々理科は好きだし、得意なので楽しみだ。
...あいつが居なければ。
今日は生憎解剖だ。しかも席の関係で浅倉と同じ班なのである。
「カエルの実験だってさ」
さっきからしきりに話し掛けてくる浅倉を無視し、私はナイフを手に取る。
「ねぇ、知ってる?」
無視される事を分かってるくせに話し掛けるこいつの精神力が分からない。
カエルを切り裂きつつ、少しだけ耳を傾けてやる。
「頚動脈ってさぁ、簡単に切れるんだよね。これを切ってしまえば生き物は大量出血で死ぬ。そんな大事な脈が何でこんなに切りやすい所にあるんだろうね?」
そう言うと浅倉は私の首に触れる。周りの女子から悲鳴があがった。
「手首もそう。神様は何でこんなところに頚動脈を通したんだろう?」
「...知らないよ」
「しかもこれ、ナイフで何回か弄れば簡単に...切れちゃうんだよね」
そう言うと浅倉はカエルの心臓近くの血管を切った。
びしゃっ、と赤い血が浅倉にかかる。
「あーあ、シャツ汚れちゃった。...まぁ、いっか。これは頚動脈かどうか分からないけど、少なくともカエルはここを切られたら大量出血で死ぬ。つまり人間の頚動脈と同じ」
そうして浅倉は笑う。
でもいつもの笑いじゃなかった。血のせいかもしれないが、少なくともいつもの王子様スマイルではなかった。
何かを裏に隠したような...そんな笑み。
「つまり何が言いたいかって言うと、人間って簡単に死んじゃうんだよね。だからいつ死んでもおかしくない。だから...」
浅倉はぐっ、と私の耳に顔を寄せ、確かにこう言った。
「のうのうと毎日を生きているバカ共見てると無性にイライラするんだよね」