狂い狂ってまた明日
「美香って...あのクラスメイトの?」
浅倉が珍しく驚いた顔をする。
「うん」
「だって...右京の友達なんじゃないのかい?」
「友達?あっちが勝手に思ってるだけでしょ?私は一ミリも思ってないから」
きっぱりと私は答えた。正直私は美香のことが大嫌いだ。自己中で、勝手で。いつも私を巻き込んでは責任を全て押し付ける。
「...ふーん。面白いね」
クスクス、と浅倉が笑い出す。
「睡眠薬...持ってる?」
「持ってるけど......あ。もしかして...」
私もニヤっと笑う。なんだかとっても楽しくなってきた。
「そう。寝てる間に殺しちゃうの」
まるで格ゲーで人をボコボコにした時のようなゾクゾクした感覚が私を襲う。
なんだか親に内緒でとっても悪いことをしているような気分だ。いや、実際悪いことをしているのだ。
あぁ、自分が壊れていく。








「美ー香っ」
私はトボトボと一人で歩く少女に声を掛ける。周りには誰もいない。
「...右京?」
「この前は怒らせちゃってごめん!」
私は頭を下げる。ホントは下げたくもないのだが。私はキャピキャピした女の振りをして話を続ける。
「私、美香と仲直りしたいの!」
あぁ、信じてくれるだろうか。
いや、あいつは信じる。何故なら...。
「わ、私も!右京だーいすきっ♡」
馬鹿だから。
つくづく哀れな女だと思う。これから自分に起こる事も知らないで。
「ねぇ、仲直りの印にクッキー作ってきたの!食べる?」
「うん!」
堤防の草原に二人は腰掛けた。
素直に美香はクッキーを受け取る。
それは、睡眠薬入りのクッキー。強力で、体内に入るとすぐさま眠りに落ちるという。
かり、と美香はクッキーを頬張った。
「うん!美味しいよこれ!」
食べた。
さぁ、どうなるのか。
私はとてもワクワクした。それと同時に睡眠薬が入ってないか、緊張した。
あぁ、胸が壊れてしまいそうだ。
すると突然がくっ!と美香の体から力が抜けた。
眠ったのだ。
私は美香の体をズルズルと引きずり、橋の下まで移動する。
ブルーシートの上まで運び、ため息をついた。
「あ、眠ったんだ」
浅倉が笑って待ち構えていた。
「じゃあ、後は頚動脈切るだけだね」
けたけた笑いながら浅倉は言う。
私はさっき貰った血まみれのナイフを取り出す。そして構えた。
「あ、血が飛んでもいいように作業服着なよ」
浅倉は作業服を脱ぎ捨て、私に放る。
それを受け取り、制服の上から着た。
改めてナイフを構える。
しかし、動かない。
「どうしたの?」
「ごめん…やっぱりできない」
「なんで?」
「怖いの」
「なんで?」
「やっぱり…人殺しはよくないよ」
いきなり浅倉は私の肩を揺さぶる。
「何で自分の嫌いな人と一緒に居なきゃいけないの?...いる必要無いよね?」
浅倉はただ無表情で、私の肩を揺さぶり続ける。
「いる必要ないなら殺しちゃえばいいんだよ?だって悪い子は要らないもんね?」
その言葉で私は動いた。
…私は美香の首に向かってナイフを振りおろした。











いつまでナイフを振るってたのか分からない。
気が付いたら首の部分がズタズタに裂けた美香だったものが目の前に転がっていた。
それを見た途端、恐怖が襲いかかってきた。
私は...ついにやってしまった...。殺してしまった。
「いやぁ、いい殺しっぷりだったね」
浅倉が拍手をした。
「いかにも殺人鬼って感じだったよ、右京。才能あるんだね」
「...え?」
才能ある?何を言ってるんだ。
「だって服に血が殆ど飛んでないじゃん?」
服を見てみると血は一滴も付いていない。
「凄いね。普通は飛ぶのに」
浅倉はニコっと微笑んだ。


改めて死体を見てみた。
さっきまでは恐怖が勝っていたが、今では快感に包まれている。
「気持ち...良かった」
「でしょ?」
浅倉が微笑みながら近付いてくる。
「最初こそは恐怖とかが勝ってるけど、だんだん人を殺すのが気持ちよくなってくるらしいんだ。まぁ、右京の場合最初っからなんだけどさ」
「なんかさ...」
理性と思考を失った私は一つ一つ言葉を紡ぐ
「すごく...気持ちよかったんだよね...自分の嫌な人が消えて...それが自分の手で消せて…長年悩まされてきたゴミを捨てたような…なんて言ったらいいかわかんないけど…とにかく気持ちいい…」
突然に笑いがこみ上げてきた。
「ぷっ…アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
浅倉も目を細めて笑った。
どうやら私も異常になってしまったようだ。
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