今、欲しいのは暗闇だけ。
「へえ、なくなっちゃうんだあ、オデオン座…」
この古びた映画館に、小さな頃はよく来た。
母親に連れられてドラえもんとか、お利口さんの柴犬が出てくる映画とか、観にきた。
でも、電車で20分ほどのショッピングセンターにシネコン映画館が出来てからは、全く。
いざ、潰れるとなると淋しさを感じる。
もっと、来てあげればよかった…とか今更思う人間て、本当勝手だ。
グレーのパーカーにジーパンで、
ふらりと篠田は現れた。
私服、初めてみた。
制服の時より、さらに背が高く見える。
なんかチャラチャラ音がすると思ったら、革ベルトから太いチェーンが垂れていて、尻ポケットの財布と繋がっていた。
うーん、結構おしゃれだ…
お疲れさん、と私の目を見ずに言った。
「高校生2枚」
唖然とする私を置いてきぼりにチケットを買う。
「え、藤枝は?」
「誘ってねえ」
「うそ」
私は、篠田に差し出されたチケットを受け取る。
「それだと、2人で観ることになってしまいますが」
「いいんじゃね?オデオン座最後だし」
悪い気はしないけど……なんか、照れ臭い。