今、欲しいのは暗闇だけ。
篠田が私の方を向いて、視線がモロあってしまった。
慌てて背ける。
「…あれ?」
「ああ」
同時に気が付いた。
観客はうちらと、3列前にカップルが1組だけということに。
これは潰れるわけだー…と篠田が気の毒そうに呟いた。
ブーーーッ
へんなオナラみたいな音がして、目の前にある金のフリンジが付いた緞帳がゆっくりと上がっていく。
それと同時に、辺りが暗くなっていった。
ショータイムの始まりだ、と胸を高鳴らせた時、前が騒がしくなった。
前の席にいるカップルが、口喧嘩を始め、「私、もういい!」と女の人が席を立って出て行ってしまった。
慌てて、後を追うお兄さん。
ついに、篠田と2人きりになってしまったワケだ。
「貸し切りだな」
「そうですね」
映画はSF巨大隕石が地球にぶつかるのを防ぐ為に勇気あるもの達が立ち上がるーーと、いう内容らしい。
ジャングルに落ちた隕石を巡って、どっかの先住民族が騒いでいるシーンから始まって、5分後。
「岩崎。俺、ジュース買ってくる」
誰もいないから、篠田は普通の声で言った。